英国テレビ文庫itvコレクション名探偵ポワロ徹底解説 名探偵ポワロ徹底解説TOP 英国テレビ文庫itvコレクション特設サイト コックを捜せ

1989年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:エドワード・ベネット、脚色:クライブ・エクストン
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子

コックを捜せ

出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
ジャップ主任警部 … フィリップ・ジャクソン/坂口 芳貞
ミス・レモン … ポーリン・モラン/翠 準子
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トッド夫人 … ブリジット・フォーサイス/此島 愛子
アーサー・シンプソン … ダーモット・クロウリー/安原 義人
イライザ・ダン … フリーダ・ダウィー/藤 夏子
トッド氏 … アンソニー・キャリック/北村 弘一
アニー … ケイティ・マーフィー/佐久間 レイ
荷物係 … ダニエル・ウェブ/牛山 茂
キャメロン氏 … リチャード・ベブ/村松 康雄

あらすじ
ベルグラビア銀行で盗難が発覚し、行員が一人行方不明となっている事件が世間を騒がせていた。それでもポワロは、「自分にふさわしい、国家的事件がない」と退屈している。そんな中、普段なら受けない庶民の事件ながら、依頼人トッド夫人の言葉に刺激されてポワロは、トッド家の失踪したコック、イライザの捜索を引き受けてしまった。ところが彼女の失踪は、ポワロも驚く思わぬ展開をしはじめる。果たして失踪の理由とは?

◆コックを捜す、第一話
シリーズの出発点たる第一話、事件に窮するポワロに舞い込んだ依頼は、行方不明のコックの捜索でした。それを聞きつけたジャップのあてこすりにもあるように、これは当時の社会階級的な価値観からすれば、かなり凡庸な事件なのでしょう。プライドの高いポワロは初めの内はにべもありませんが、「腕のいいコックを失くすのは、どこかの貴婦人が真珠を失くすのと同じくらい重大なこと」というトッド夫人の指摘に心変わりし、引き受けます。勢いに押されてしまったようでもありますが、しかしながらこの変心は、夫人の指摘に納得してしまった美食家ポワロの特質を暗示しているようでもあります。
また、トッド氏が来客のポワロとヘイスティングスを前に、ふるまうことなく一人で酒を飲む描写も、中産階級者が多く住むクラパムの住人の社会性を反映した描写かもしれませんが、酒にありつけず落胆するヘイスティングスの、飲食に意地汚い嗜好をほのめかしているようにも思えます。 ポワロの食に対する価値観も、ヘイスティングスの稚気も、これから回を重ねるにつれ、より明確に露わになっていく彼らのユニークな特徴です。

◆声のセミ・レギュラー
ポワロがベルグラビア銀行で面会するキャメロン氏を演じた俳優リチャード・ベブは、同役ではないものの、以降も『夢』『100万ドル債権盗難事件』『マースドン荘の惨劇』『ゴルフ場殺人事件』で、物語の背景となる事件を報道するナレーションなどを担当。時代が偲ばれるニュース映画の演出も、このシリーズの定番のひとつです。

◆プロフィール:エルキュール・ポワロ[1]
ここで、主人公ポワロの経歴について簡単にご紹介を。しじゅうフランス人に間違えられますが、その度に彼が強調している通りのベルギー人。在郷時代はジャップと初コンビを組んだ「アバクロンビー偽札事件」を皮切りにブリュッセルで警察官として勤務。第一次大戦が勃発し、難民としてイギリスに渡って滞在していたスタイルズ・セントメアリー村で、かつて取り調べた縁で知己となったヘイスティングスと再会。二人で『スタイルズ荘の怪事件』に取り組んだことをきっかけに、終戦後はロンドンにて共同で探偵事務所を開業。1930年代前半には、対称的な景観と内装を擁するホワイトヘヴン・マンションに事務所兼住居を構えます。名探偵の宿命か、あちこちで死体に遭遇する日々を過ごし、やがて引退して田舎に引っ込んだものの、そこでも死体に遭遇。再びロンドンに舞い戻り探偵業を再開、世を去るその時まで悪に立ち向かう一生を送りました。本ドラマシリーズは、そんな彼の気高く、素晴らしい日々を綴った人生譚でもあるのです。
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