英国テレビ文庫itvコレクション名探偵ポワロ徹底解説 名探偵ポワロ徹底解説TOP 英国テレビ文庫itvコレクション特設サイト 海上の悲劇

1989年作品
製作:ブライアン・イーストマン、監督:レニー・ライ、脚色:クライブ・エクストン
日本語版プロデューサー:里口 千、日本語版演出:山田 悦司、日本語版翻訳:宇津木 道子

海上の悲劇

出演:
エルキュール・ポワロ … デビッド・スーシェ/熊倉 一雄
ヘイスティングス大尉 … ヒュー・フレイザー/富山 敬、安原 義人
      ※   ※   ※
キティ・ムーニー … メリッサ・グリーンウッド/鶴 ひろみ
フォーブス将軍 … ロジャー・ヒューム/富田 耕生
ファウラー船長 … ベン・アリス/小林 清志
ジョン・クラパトン大佐 … ジョン・ノーミントン/金内 吉男
クラパトン夫人 … シーラ・アレン/北村 昌子
エリー・ヘンダーソン … アン・ファーバンク/鳳 八千代
ラッセル氏 … ジェームズ・オタウェイ/松岡 文雄
トリヴァー氏 … ジェフリー・ビーバース/仲村 秀生

あらすじ
ポワロはヘイスティングスと船旅を楽しんでいた。船上では名門出身の妻が夫に横柄な態度を取り続けているクラパトン夫妻が乗船客たちの注目を集めている。船がアレキサンドリアに到着し、令嬢たちに誘われたクラパトンも上陸した結果、夫人だけが船に残った。やがて夕方となり、船に戻った人々が見たものは…何者かに殺害されたクラパトン夫人の姿だった。乗客たちの話からポワロは、犯人の巧みなアリバイ工作に気がつく。

旅する舞台
前話に引き続き、ロンドンを離れ観光にいそしむ途上で殺人に遭遇したポワロの活躍を描く物語。今回は、エジプトのアレキサンドリアにも寄港しますが、小さく見えても宿泊設備を備えたなかなかに快適そうなクルーズ船が舞台。犯罪トリックはワン・ポイントながら、こうした設定がそれを盛り上げます。本話のテイストが気に入られた方は、同様な背景やトリックもより大掛かりに描かれる長編『ナイルに死す』をお楽しみに。

ポワロの正義
物語の終盤、犯人を名指す解決編においてポワロは珍しく、かなり芝居がかった謎解きを見せます。今後、特に長編シリーズでは専ら、集められた容疑者全員にかような犯行動機と機会が有り得たと、一人一人の可能性を詳細に語り尽くすパターンが主になります。長編と短編の時間の使い方の差とも思えますが、短編においても本話のように人形を使うような趣向は珍しい部類と言えます。
そしてエピローグ。もってまわった糾弾とも言えるこのポワロの謎解きは、犯人の気持ちを慮る人物によって「残酷で卑劣なトリック」と厳しく指摘されます。ところがポワロはひるむことなくそれを受け止め、はねつけます。殺人者に情けは無用、もっと言えば、殺人の断罪にやりすぎるということはないという、殺人に対する憎悪にも似たポワロの倫理観がこの意味深いラストで明確に示され、今後もこうした描写がシリーズの折々に描かれます。

彼(か)の地でのスタイル
ロンドンを離れた非日常感を演出する一因に、ポワロのスタイルの意匠があります。ホームグラウンドでは黒かグレー地が基調であるのに対し、リゾートなどへ赴いた彼は白系の服装もよく身につけます。しかし、本話のようにサングラスまでかける様は結構、レアなシーンです。
また、お気に入りのスワン付きでなく、望遠鏡を内蔵したステッキを手にしているのも観光地ならでは。今後も遠征編の回では、この望遠鏡の他に、別の機能付きステッキもお目見えします。
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