元ビジネス誌記者が見た!

ボードウォーク・エンパイア 欲望の街

特集ページ 放送予定

1920年代の禁酒法時代、歓楽街を牛耳った実在の政治家イーノック・ジョンソンをモデルに、華麗にして壮絶なストーリーを展開する大河ドラマ。
ラスベガスよりも先に繁栄を迎えていた一大歓楽街アトランティック・シティを舞台に主人公イーノック・“ナッキー”・トンプソンの飽くなき野望を描いた人気シリーズ。

  • シーズン1: 全12話 2010年/アメリカ
  • 製作総指揮・監督: マーティン・スコセッシ 「タクシードライバー」「ディパーテッド」
  • 出演: スティーブ・ブシェミ 「ファーゴ」「レザボアドッグス」/マイケル・ピット 「シルク」「ラストデイズ」
    ケリー・マクドナルド 「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」
ボードウォーク・エンパイア

 その男の名はイーノック・”ナッキー“・トンプソン。第一次世界大戦が終わり、戦勝国として混乱と繁栄に湧くアメリカで、ナッキーは市の収入役でありながら、カジノ、売春、密輸と裏社会で巨万の富を得、カネの力でアトランティックの街を支配していた。自分の野望を果たすためなら邪魔者は容赦なく排除する。彼にはカネがすべてなのだ。
 エンジのスリーピースを細身にまとい、胸には赤いカーネーション。ハンフリーボガードばりの大人の男の色気さえ漂わせながら、その仕事ぶりはまるで機械のように、”正確で、迅速で、感情に流されない“。役人、政治家への賄賂が公然と行われていた当時のアメリカで、彼は間違いなくダークヒーローだ。
 1920年、『高貴な実験』と言われた「禁酒法」が施行されたが、いち早くカネの匂いを嗅ぎつけたのがナッキーだ。禁酒法は、酒の製造、販売は禁じたが、酒を飲む人間は罰せられなかった。表の社会で販売が禁止され、かえって人々の飲酒意欲は高まった。彼はすぐさま密造・密売のシンジゲートを創り独占したのだ。
 「需要は無尽蔵、販売は独占」―こんな旨いビジネスはない。その上、密造だから酒の値段の半分を占めていた税金を払わないで済み、まる儲けである。さらにナッキーはアルコールを薄めて密売したから、巨万の利益を上げた。ビジネスのやり方としてはほめられないが、社会の流れを読み、禁酒法がもたらす影響を先取りしたビジネス観は鋭いと言える。

 時折ナッキーは、単なるハードボイルドとは違う心の隙間をのぞかせる。愛さえもカネで買えると信じていた男が、同じアイリッシュの貧しい移民女をふとしたきっかけで愛してしまう。打算から始まった愛なのに。それは過去に深い悲しみを抱えた人間だけが持つ「優しさ」から、なのかもしれない。
だれもが孤独の中で、本当の愛、家族の幸せに飢えながら、しかし、時代がそれを許さない。
ナッキーの本性を知って別れようとする愛人が尋ねる
『あなたには優しさがあるわ。なのに、どうしてあんな(不正)ことをするの?』
ナッキーが応える。
『背負った罪の重さは、皆、自分で決めるもんだ』
そう、男には抑えきれない野望がある。だが、その始末も自分で付けるんだ。
 シカゴの野卑で粗暴な男アル・カポネ、ニューヨークの”インテリやくざ“ルチアーノも若きギャングとして登場し、ナッキーを恐れ、やがて脅かす存在になる。ナッキーを執拗に追う国税庁禁酒法取締官オルデン。彼もまた、狂った時代の犠牲となる。
様々な人間模様を描きながら虚飾の繁栄と抗争を続け、時代は世界恐慌の引き金となった1929年の「魔の木曜日」へと突き進んでいく・・・。

高橋 銀次郎

1947年生まれ。「日経マネー」副編集長、「日経アントロポス」編集長、日経本社証券部次長、「日経ベンチャー」編集長などを経て、2007年日経BP企画社長、2010年日経BPコンサルティング社長(2011年3月25日退任)を務める。

男には抑えきれない野望がある だが、その始末も自分で付けるんだ

マジック・シティ 黒い楽園

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1950年代の一大観光街マイアミビーチを舞台に、高級ホテルのオーナー、アイク・エヴァンスの大いなる野望と、それに巻き込まれる人々の壮絶な権力闘争が描かれる上質なクライム・サスペンス。
50年代アメリカのセレブ生活も華麗に描かれており、衣装やクラシックカーのゴージャスさは超一級。

  • シーズン1: 全8話 2012年/アメリカ
  • 製作総指揮・脚本 : ミッチ・グレイザー 「クルート」「大いなる遺産」脚本
  • 出演: ジェフリー・ディーン・モーガン TVドラマ・シリーズ「グレイズ・アナトミー」
  • オルガ・キュリレンコ「オブリビオン』『007/慰めの報酬」/ダニー・ヒューストン「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」
マジック・シティ

激動の時代。経営判断の誤りが、事業を危機にさらす。米国フロリダ州マイアミで、豪華ホテルを経営する経営者が、生き残りをかけた壮絶な戦いを繰り広げる。

 時代は大きく変わろうとしていた。米国が”希望と自信“に満ちあふれていた1950年代最後の年1959年1月1日、キューバの首都ハバナは、革命家チェ・ゲバラ、フィデル・カストロらの反政府軍の手に落ちる。
 当時、キューバは米国の“裏庭”で、実質的な植民地だった。主要産業を支配するのは米国資本。米国人の金持ち連中の遊び場で、マフィアの巣窟だった。それが、革命勢力の手によってひっくり返ってしまったのである。政変はやがて、米ソの対立が一触即発の核戦争寸前に達したミサイル危機へとつながる。
 押しとどめようのない歴史の転換期。「マジック・シティ」は、革命の影響を米国で最も強く受けたフロリダ州マイアミのホテルが舞台。経営判断を一つでも誤れば、事業を失いかねない緊張の日々に、創業者アイク・エヴァンスの生き残りを賭けた闘いが始まる。
 アイクの前に立ちはだかるのは、ホテルを奪い取ろうとする出資者、摘発に血眼の地元検察当局、従業員のオルグで対決する全国組織の組合....。

 いつの時代も、危機から企業を救うのは、事業存続にかける経営者の強い思いである。アイクは敵対する組合幹部に言い放つ。
『生き残るためなら、オレはどんな手でも使う...』
 マイアミがまだ砂浜だった頃に徒手空拳で事業を立ち上げ、この町随一の高級ホテルに育て上げたアイク。自分の創業した事業を組合などに乗っ取られてたまるか、の思いは人一倍強い。その執念は、アイクと父親が交わす会話にうかがえる。
『Stay hungry, stay alive...』
『貪欲に生きる、なんとしても生き残ってやる』といった意味だろう。その思いは多くの経営者に共通するが、成功に駆られた男たちのいわば本性である。
アップルを立ち上げた、米国を代表する創業経営者スティーブ・ジョブズが生前、スタンフォード大学の卒業式に招かれ、学生たちに贈った言葉がまさに「Stay hungry」だった。この言葉は、新たなベンチャー企業を続々と輩出し、成功の夢を追い続ける米国ビジネスのキーワードでもある。
 だが、「生き残るため」の強い思いは反面で、経営者の目を曇らせる。ホテル事業の存続のために、アイクは非合法の世界に生きる出資者ベン・ダイヤモンドの黒いカネに頼ってしまう。現代に通じる経営者の悲劇を「マジック・シティ」は描いて見せる。

大河原 暢彦

1947年生まれ。「日経ビジネス」副編集長、ニューヨーク大学フルブライト研究員、「日経ロジスティクス」編集長などを経て、1995年、日経ナショナルジオグラフィック社に移り、初代編集長に就任。2005年、同社代表取締役(2009年退任)を務める。

マイアミ発 ”貪欲でなければ“生き残れない

ハウス・オブ・カード

政界の裏側を暴く究極の“内幕”ドラマ。約束されていた大臣のポストを反故にされ、将来の展望を失ったベテラン議員が、大統領を失墜させるための陰謀を企てる…。
選挙やマスコミ、若手議員のスキャンダルなど、あらゆる駒を使って知的な復讐を繰り広げるダークヒーローが新たに誕生。

  • シーズン1: 全13話 2013年/アメリカ
  • 製作総指揮・演出(1、2話) : デヴィッド・フィンチャー
  • 出演: ケビン・スペイシー「ユージュアル・サスペクツ」「アメリカン・ビューティー」/ロビン・ライト「ドラゴン・タトゥ―の女」
    「フォレスト・ガンプ/一期一会」/ケイト・マーラ TVドラマ・シリーズ「24 ―Twenty Four―」 他
ハウス・オブ・カード

大統領選の勝利への貢献で得られるはずだった国務長官の座。それを逃した男は、怒りと失意を、ワシントンの政界で人事と政策を操る、痛快なパワーゲームにぶつける

 首都のワシントンにいては米国は理解できない、といわれる。その一つの理由は、この町の特殊性のせいだろう。
 全米50州のいずれにも属さないコロンビア特別区。人口は63万人余りで、25歳以上の男女の半数以上が大学卒業以上の高学歴の持ち主。連邦政府のお膝元でありながら、この地区を代表して議会で投票できる上院議員も下院議員もいない。
 世界の170以上の国が、この町に大使館を置き、世界銀行や国際通貨基金(IMF)など主要国際機関がそろって本部を構える、世界の政治と経済の中心地。企業や団体がこの町で雇うロビイストの数は登録者だけでも1万2000人以上になる。
 整然とした街並みの美しさを誇るこの町が4年に一度、お祭り騒ぎに沸き返る。新大統領の就任式の日である。オバマ大統領が誕生した2009年の1月20日、議事堂前で行われた就任式を見物に集まった人の数はなんと180万人。テレビやインターネットなどのメディアを通じて、世界の目と耳がこの日ワシントンに注がれた。

 「ハウス・オブ・カード」はこの政治の町ワシントンに2013年1月、ギャレット・ウォーカー大統領が誕生するところから始まる。1901年以来の伝統、議事堂前での就任演説で、新大統領は教育の改革を訴え、新政権の最重政策に掲げる。
 この新大統領誕生の陰の立役者は、下院の実力者で、院内幹事を務めるフランシス・アンダーウッド。大統領選勝利の論功行賞で、新政権で国務長官のポストを得るはずだった。
だが大統領と主席補佐官の裏切りにあう。その怒りがアンダーウッドを駆り立てる。
 筋立てを明らかにするわけにはいかないが、アンダーウッドの務める院内幹事役は、議長、院内総務に次ぐ下院の重要ポスト。日本の国会対策委員長に似て、議案の作成や成立に不可欠な存在である。その影響力と人脈を巧みに使って、アンダーウッドは怒りをワシントン政界での権力拡大に向ける。閣僚人事や政策を陰で操る闇将軍への道である。
 政治的な復讐劇というより、小気味よい痛快なパワーゲーム。「政治は権力闘争である」
という言葉を改めて思い起こさせる。企業献金、基地問題、記者への情報漏えい、知事選への介入、若手議員のスキャンダルと不倫-、現実感たっぷりのエピソードを通じて、ワシントンという町と、そこに生きる人々の面白さ、哀しさが見事に描かれる。

大河原 暢彦

1947年生まれ。「日経ビジネス」副編集長、ニューヨーク大学フルブライト研究員、「日経ロジスティクス」編集長などを経て、1995年、日経ナショナルジオグラフィック社に移り、初代編集長に就任。2005年、同社代表取締役(2009年退任)を務める。

ワシントン発 ”政治は権力闘争だ“